二人のグルジア作家

最初にグルジアに直接コンタクトをとったのが1993~4年だったか、となると日本のスクリーンで上映するために14年近くも費してしまったが、アレクサンドル・レクヴィアシュヴィリの映画を上映できることになったのはとにもかくにも嬉しい。最初は旧共産圏で活動するヘッジファンドが出資しているS財団を仲介にFaxを送ったりしたものだが、と言ってもグルジア内戦直後は単に他に手段がなかったからで、結局財団の日本人担当者がさっぱり興味を示さずプランは頓挫。ソクーロフが定着し始めた20世紀末に配給会社の人にペレシャン、アンドレイ・チェルニフ、ユーフィト、カイダノフスキー(最近やっとトルストイ原作の『単純な死』を見たが、黒白画面にドライヤー的な時計の音が不気味に響く室内に幻影や亡霊が瀕死の主人公を看取りにやってくる、なかなか狂ってる映画である)といった同時代の優れた旧ソ連映画作家を集めて上映したら?と持ちかけたが、今も変わらず一点作家<崇拝〜消費>主義の日本で聞く耳を持たれることはなかった。実現していればソ連崩壊後いまだ隠されている奇怪な傑作群が日本のスクリーンに跋扈する世にも楽しい事態になっただろうし、旧ソ連の国々のイメージが日本からほぼ消滅してしまっている現在もありえなかっただろう。実を言うと上映活動は金欠もあってピリオドと考えていたのだが、今回上映を実現できたのは、今年やっとグルジア在日大使館が開設されて手段が開かれ、プロデューサーでもある文化省と直接話せるようになったから、である。

 

それにしても驚いたのはレクヴィアシュヴィリという人、溝口やドライヤーを敬愛しソ連時代には長回しや固定画面で知られた作家のはずだったが、この新作ドキュメンタリー『The Last』は何とドワンやベティカーを思わせるリズムの速いカットと編集の「西部劇」である。それをいっそう連想させる弦楽器によって繰り返し奏でられる音楽に伴われ、ナレーションもなく言葉もほとんど使わず68分を一気の見事さ、また見るものを惹きつける日々の労働(ブレッソン的な手作業のメロディ)と人々を取り囲む空間を撮るこれしかないという距離感と音の物質感・・・特に一瞬見えるグループショットや背景の山々込みのロングショットの決まり感と惜しげもなくそれをカットし運動を紡ぎ出すリズムは、ただ素晴らしいの一語である。言うまでもなく「ほとんど言葉がない〜見ることと聴くことへのダイレクトなアプローチ」という点でペレシャン『四季』やシャルナス・バルタスの諸作と比較できるが、サウンドトラックの音を後から構成した『四季』ともバルタスの固定長回し画面とも異なる50年代B級映画の感触でこのアプローチをやってのけてしまう贅沢さ。未見だが『Seven Invisible Men』で作風を変えたらしいバルタスはむしろ、この『The Last』のような何のてらいもないショットの積み重ねだけの映画を撮りたいのにできなかったのではないか?とも思える(そう言えば『七人の無頼漢』(Seven Men From Now)の輸入DVDのおまけにタランティーノがイーストウッドと2ショットで出てきてコメントしているが、彼もまた自分ではこの種の映画を絶対に撮れないことを知っている)。欲を言えばソ連時代のレクヴィアシュヴィリを同時上映できなかったのは残念で、何しろプリントがロシアにありDVD化されておらず、ビンボー批評家にはとても調達不可能な状況だったからだが、ぜひともその紹介のきっかけになればと願う。

一方それに比べると驚きはないものの、オタール・イオセリアーニの新作『ここに幸あり』は今までの作品歴で最も普通に笑える映画かも知れない。正直前作までで少々飽きてしまっていたので(笑)見るのが億劫になってしまっていたのだがやはり手練である。イオセリアーニの『お引越し』とでも言えるこの映画は、フランスのある大臣が職を解かれ元住んでいた家に戻ろうとするのだが、そのため大臣の取り巻きの人々と動物、新しい大臣と取り巻きの人々と動物、さらに元の家を不法占拠している移民の人々がそれぞれ玉突き大移動しなければならなくなる顛末を描写する。そこで大勢の人々が各画面に出たり入ったりするたびにノイズのオーケストラを出したり入れたりしているような印象さえ与えるわけだ。ピアノで始まり弦、管、アコーディオンとさまざまな伴奏がこの喧噪を彩っていき、志村けんのようなババアになって床を滑ったり走ったりするミッシェル・ピコリをはじめ、ジャン・ドゥーシェやラズロ・サボ、ピエール・エテックスらがおなじみの芸風で笑わせる。イオセリアーニ自身も相変わらず国名の由来である聖ゲオルギウスを道に描いたりして登場し、もうホームムービーかよと錯覚されるほどだが、そこはそれフランスで巨匠として地位を得てしまっている余裕のなせる技という感じだ。

(2007.9.8)


©Akasaka Daisuke

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