『雷撃に死す』と『二足歩行』

このサイトを立ち上げてちょうど一ヶ月後に幸運にもエフゲニー・ユーフィト(ユフィット)の新作2本の上映をイメージフォーラム・フェスティバル2005で見ることができた。35ミリではなくヴィデオ上映だったのは残念だったのだが、この人の作品はロシア本国では現代美術館、アメリカならMOMAやリンカーン・センター、ハーバード大学といった場所で上映されていることを考えると、こういった施設のない(あっても機能していない)今の日本の現行のシステムではこれがMaxの露出ということであろう。

一応ポスト・ソクーロフの旗手として紹介されているが、基本的にこの人の映画はSFコメディである。シュールな芸風のお笑い全盛の日本でも受け入れられそうな気はするのだが・・・もっともインタビューを読んでみると本人は笑っても笑わなくても構わない(笑)と答えてはいるが。

まずセピア映像の『雷撃に死す』Killed by Lightning(2002)。どうやらある女性人類学者についての物語で、彼女は子供の頃に母親に連れられて動物園にゴリラ(オランウータン?)を見に行って帰宅すると原子力潜水艦の艦長だった父親がゴリラのような船員と全裸でいるのを発見して衝撃をうけ、そのまま父親の原潜が敵の魚雷を受けて沈没し帰らぬ人になったために父親=ホモ=ゴリラがトラウマになってしまったらしい。だから彼女は壊れかけたパソコンを通じて国際シンポジウムに参加しても自説を支持されることはまずない。そんな彼女の日常に、妄想(想像?)のイメージが脈絡なく展開されていく。ロングショットで全裸の原始人が森や川や野原でウロウロしているだけの長い画面、父親がホモの男たちと遊んでいるシーン、潜水艦の沈没、等である。

最新作のほうは黒白の『二足歩行』Bipedalism(2005)。植物図鑑イラストレーター一家がある狂った老人の勧めで借りた田舎の旧家の地下で古文書とフィルムを発見する。それはスターリン時代の政府の秘密計画「二足歩行」の資料で、人類と猿を合体させて超人というか原始人(笑)を作ろうという計画だったらしいのだが、そこに父の写真を見つけたイラストレーターは自分の父がその計画に加わっていたという妄想にとりつかれ?またしてもゴルフ場のような野原や森林で遠くのほうにウロチョロする原始人、それを始末しようとする(というか一列に並んで歩いているだけだが)政府の特殊部隊?やバイオやナノテクの発達もあってかこの計画を再始動させようとするマッドサイエンティスト?等の映像が脈絡なく展開されていく。

この二作と前作『シルバーへッズ』が違う点はすべてのイメージが主人公の妄想?と解釈可能なように「見えないこともない」ということである。『雷撃に死す』のほうはウィルスで壊れかけた主人公のモニター上に彼女の作った?原始人のイメージが登場してくる。というよりは50年代のB級SF映画の定型を口実として自分のモチーフである滑稽なイメージやギャグを好き勝手に展開させている感じだ。リズムはタルコフスキー以来の例のごとき遅さなのだが、繰り返し同じモチーフを使うところはロブ=グリエを連想させもする。サウンドはほとんどノイズ(おそらく後から作っているだろう)。『二足歩行』では水平が傾いたキャメラがゆっくりと上から下への動きを繰り返すリズムに合わせて音を動かす設計が精緻である。

(2005.05.06)


©Akasaka Daisuke

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